2021-01

みじかいもの

あのこにミルク

「シロ」 佐和が笑っていた。ぼろぼろに疲れているくせに笑っていた。どうしたってひとりなんだよどうしようとにこにこ笑いながら、笑う、笑う、笑う。かわいいなあ、大事だなと思うのに、思うせいで、心を真似して身体までもが佐和をかわいいなあと...
ブルウ - シリーズ

どこから間違いだったのかしら

小論文の授業はみんな指定された教室へと散らばるからとても楽だ。教室、情報処理室、図書室。まだこの課題は始まったばかりのものなので、大抵は調べものをしてくる、と言って教室を離れていくし、自分はあまりやる気がないけれどグループの人間が移動する...
じぶんのはなし

実家の祖父が亡くなった日

実家の祖父が亡くなった日。中学二年の春だった。私はいつものように、離れからやってきた祖父を無視した。離れにもトイレはあるのにどうしてわざわざうちに用を足しに来るんだろうと、あからさまに顔を背けた。当時の私は多分、親に向けることができない反...
詩のようなもの

夜も朝も昼も夜も(3/4)

PM 13:00 窓の奥の首都高やビルの屋上の縁を誰かが歩いている。そうやって眺めている日のことをわたしは快晴と呼ぶ。変わりばえのしないサンドイッチも、野菜スティックも、水筒にぶち込んだただの水も。ぼんやりと何もかもが白く滲んでいく...
ブルウ - シリーズ

やはり親友とかいうやつはいいもんでもない

扉から出てまず確認することは自分以外にこの場所の利用者はいないか、ということだった。統一されたクリーム色の扉が、全て開け放たれていることを確認してまず一息。そうしてからおぼつかない足取りで手洗い場まで進んで、鏡越しの自分の顔色を眺めてから...
詩のようなもの

夜も朝も昼も夜も(2/4)

AM 07:58 あなたがむいたりんご、次の日には茶色くなっていました。ひとつひとつ丁寧に食べたかったのに、どうしても叶いませんでした。わたしは塩水の味が苦手だとぐずり、あなたはたしなめながら浸けてくれた。そのりんご、ずっと食べてい...
詩のようなもの

君の背中の奥ひらく晴天はいつもさみしい色だ

君の背中の奥ひらく晴天はいつもさみしい色だ。これきりにしないよう必死に伸ばした右の手が彼の制服の裾を摘まんで、きゅうとちいさく引き寄せようとした。戸惑うように振り返った彼は僕の顔を見て更に動揺して、声にもならず開いた唇が「なんだ」と動いた...
詩のようなもの

夜も朝も昼も夜も (1/4)

AM 01:35 夜の底に落っこちたつもりだったのに、短針はひとつぶんしか進んでいなかった。おかしいなと身体を起こして辺りを見渡す。ひとりきりの真夜中とひとりきりの水族館はよく似ている。といっても、僕はひとりきりで水族館に行ったこと...
ブルウ - シリーズ

その唇からは林檎と蜂蜜の香りがした

情景の表現なんて豊かに並べていられない。吹きすさぶ風を受ける私の心の中はただただ寒い、寒いとだけ繰り返していた。一時間に一本しか通らない電車はつい十分前にこの駅から発車したところで、たった一両きりの水色の車両がそうして走り去っていくのを、...
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