AM 07:58
あなたがむいたりんご、次の日には茶色くなっていました。ひとつひとつ丁寧に食べたかったのに、どうしても叶いませんでした。わたしは塩水の味が苦手だとぐずり、あなたはたしなめながら浸けてくれた。そのりんご、ずっと食べていたかったのに、なくなってしまった。しゃくしゃく響く振動ごとあなたみたいにしていたかった。そんなこといったらあなた喜ぶでしょう。喜ぶんでしょうね。ただ、もうわたしのへやにはあなたのりんごがない。だから、わたしの数日前からのあさごはんは、食パンだとかロールパンだとか、そういうものです。朝のテレビ画面はいつも恒例。あと二分ではじまるドラマのためにぼんやりと湯呑をすすぐ。テーブルのうえでちかりとひかるスマートフォンに、ああ、あと一分かなと目安をつけて、覗き込む。「おはよう」ではじまるメッセージ。今日はいつも通り電車が来たんだなあと、くふくふ頬を揺らしている間に8時ちょうどになる。はじまる。あなたのおはようと、わたしのあさがはじまる。小さなワンルームに朝日が昇る。
あなたきっと喜ぶんでしょうね。わたしの毎日を覗き込んだら。だけどきっと、そんなことしたら、あなたきっと、そうでしょう、あなたきっと。
だから今度。だから今度ね。
(2019/08/31)